相合傘の詩です。
といっても、これは悲しい悲しい相合傘なのです。
二人してさす一張の
傘に姿をつつむとも
情の雨のふりしきり
かわく間もなきたもとかな
顔と顔とをうちよせて
あゆむとすればなつかしや
梅花の油黒髪の
乱れて匂ふ傘のうち
恋の一雨ぬれまさり
ぬれてこひしき夢の間や
染めてぞ燃ゆる紅絹(もみ)うらの
雨になやめる足まとひ
歌ふをきけば梅川よ
しばし情を捨てよかし
いづこも恋に戯れて
それ忠兵衛の夢がたり
こひしき雨よふらばふれ
秋の入日の照りそひて
傘の涙を乾さぬ間に
手に手をとりて行きて帰らじ
「忠兵衛の夢がたり」…忠兵衛とは近松門左衛門「冥途の飛脚」の主人公亀屋忠兵衛。
飛脚問屋の若旦那です。遊女の梅川と道ならぬ恋に落ち大事な金に手をつけ逃避行という話です。
(「曾根崎心中・冥途の飛脚 他五篇」として岩波文庫から出ています)
その道行きの、悲劇的な相合傘です。ラブラブな言葉が多いですが
悲劇的なラブです。だから楽しく朗読しちゃイカンです。
傘の内に女の髪の油の香りが乱れこもっているというのが、生々しい観察と思いました。
「おきく」にも「冥土の飛脚」の忠兵衛、梅川についての記述があります。
歌舞伎や浄瑠璃を題材にした詩として北原白秋「かおる勘平」「忠弥」も
味わいふかいです。
|島崎藤村 朗読|